私は天使なんかじゃない







ボルト101 〜変節〜





  故郷が変わったのか、それとも自分が変わったのか。





  ボルトからの襲撃から2日後。
  俺様は退院し、何があったのかボルト101に確認しに俺様はメガトンから旅立った。
  今回同行してくれるのはケリィとスージー。
  ケリィはボルト101の元住人。
  おそらく、というか、かなりの確率でボルトは混乱しているのだと思う。ボルト至上主義のアランたちの行動を見る限り、再び対立が激化しているのだろう。開放派と閉鎖派の対立が。
  俺もおっさんもボルトの元住人だから、入れるとしたら、抵抗のない俺たちぐらいだろう。
  なのでトロイは置いてきた。
  あいつはあいつで「兄貴の子分にしますっ!」とか言って妙なロボット修理してる。あいつはED-Eとか呼んでたな。機体に張り付けられたナンバープレートのような代物にそう記されてい
  たかららしい。命名方法としては、まあ、安直だよな。
  名目としてはスージーの帰還の護衛ってことになってる。もちろんそれも嘘ではないが。
  メガトンからボルトまでは直線距離で2時間ぐらいだ。
  もちろん武装は充分にしてある。
  俺様は穴だらけにされたがちゃんと縫って補修したトンネルスネークの皮ジャン、カスタマイズして20発装填できる9oピストルを二丁腰にぶら下げてる。いちおう皮ジャンは防弾チョッキを
  内側に縫い込んではいたがアサルトライフルの掃射に対しての防弾性はさすがに無理があったな。とりあえずいつも通りの装備だ。
  あと、お袋への土産としてモイラに頼んでた女物の服持ってきてる。
  ケリィのおっさんは傭兵の服を着てる。
  左右の腰に10oマンンガン、背中にはコンバットショットガンと最近買ったと自慢してた40oのグレネードライフル。どうも西海岸製らしい。あと右足には32口径ピストル、左足にはコンバット
  ナイフが仕込んであるらしい。ズボンの裾の中で隠れてて見えないが。そして手にはカバンを持ってる。ボルトの旧友への土産らしい。何の土産だか知らん。
  「おっさん重装備だな」
  「こんな時勢だからな。それに前よりは軽装備だよ」
  「マジか」
  メガトンを旅立って一時間ほど経った。
  近くにはスプリングベールという街があるらしい。正確には元街。戦前の街だ。最近では何とか修道院が出来たとアッシュが言ってたな。
  途中までは優等生をボスと呼んでるアカハナ達ピット組が巡回ルートと一緒だったから同道してたけど今はもういない。
  いいよなぁ、優等生は。
  もっとトンネルスネークの規模を拡大したいぜ。
  「大丈夫か、スージー」
  「え、ええ、大丈夫」
  全然大丈夫そうではないスージーはそう答えた。
  親父と兄貴の裏切りも堪えてるんだろうが、それ以上に疲労感に苛まれているようだ。それはそうだろうな、ボルトでも運動する機会は当然あるが、外の世界ではそれでは適応できない。
  道1つとってもでこぼこしてるし疲労感は増す。
  彼女はボルトから支給された10oピストルを腰にぶら下げてる。
  俺は早々に撃たれて意識不明だったから知らなかったが、聞けばボルトから来たボルト至上主義者たちはコンバットショットガンとかアサルトライフルを装備していたらしい。スージーが言う
  には前に襲撃してきたレイダーたちの銃火器を今回の遠征では装備していたようだ。とはいえ外の世界に外の世界のルールがある。
  ボルトでは無敵の軍事力にはなるだろうが、外ではそうでもなかった。
  もちろん連中の目的はメガトンにはなかったから積極的な交戦はなかった、とはいえ、メガトン側も街中での戦闘行為を容認する理由はない。市長不在とはいえ保安官助手はいるしレギュ
  レーターのビリー・クリールもアッシュもいる、自営した市民もいれば街道巡回の為の警備兵も駐屯してる。結果として撃退した、らしい。
  3名の捕虜と数名の死体を残して至上主義者たちは姿を消した。
  捕虜は現在拘留中。
  沙汰はルーカス・シムズが要塞から戻ってから決めるらしい。
  「少し休憩するか?」
  「ううん、大丈夫」
  「そうか?」
  「ええ」
  「ならいいが……」

  ドサ。

  「ん?」
  おっさんは立ち止まってカバンを放り出し、背負ってたアサルトライフルを手に構えた。
  俺たちも止まる。
  「どうした、おっさん?」
  「お客さんだ」
  「お客?」
  指差す。
  その方向にはふらふらと彷徨っている、粗末な服の奴がいた。
  目を細める。
  異様に痩せ細ったその人物は人ではなく、グール、いや、あれはフェラルか?
  「ドッグミートがいたらもう少し早く気付けた。まあ、あの距離だ、アサルトライフルでの攻撃は効率的じゃないな。狙撃用に今度からハンティングライフルを持ってくるべきか」
  「ドッグ……犬の名前か? センスねぇな」
  名前が犬肉?
  非常食かよ。
  「そういえば犬はどうしたんだよ、トロイが心配してたぜ? 食ったのか?」
  「犬なんか食うかっ! あいつはデイブ共和国にいる」
  「デブ共和国? ああ、おっさんの理想郷か」
  「ぶっ殺すぞっ! デイブだデイブ、元傭兵で昔組んでたおっさんの国だ。国というかただの集落なんだけどよ」
  物騒なおっさんだぜ。
  「ドッグミートはそこで結婚したんだよ。女房犬が身籠ったから置いてきたんだ」
  「何だよあの犬はリア獣かよ。おっさんは……はぁ……」
  「何だその憐れむ目はっ! 俺だって彼女、というか、一方的ではあるけど、シャウナってデイブの娘に好かれてるんだ。まだ十代だぜ。とはいってもそいつがもっと餓鬼の頃から知ってる
  からな、手を出すのが気が引けるんだよなぁ。デイブが親父になるっていうのもなぁ」
  「デブの親父か、そいつは嫌だな」
  「しつけぇよっ!」
  その時、こちらを視認したのだろう、フェラルが向こうがこちらを見る。
  まあ気付くわな、こんだけ騒げば。
  天を仰ぎ叫んだ。

  「アータームーっ!」

  喋った?
  フェラルは知性がない獣だと聞いてたが……あー、あれがルーカス・シムズが言ってた片言で意味不明に喋る新種のドラウグールってやつか。あの時は薄暗かったし、直接相手にして
  なかったから姿までは分からなかったが見た感じはフェラルと大した違いはなさそうだ。戦闘を見た感じ大して強くなかったし。
  問題は叫んだのは仲間を引き寄せる為らしいってことだ。
  囲まれたっ!
  ドラウグールは問答無用でこっちにラッシュしてくる。
  マジかよっ!
  「くそっ!」
  9oピストルを二丁引き抜いて迫ってくるドラウグール達に向けて連射する。
  装填数は20発。
  つまり二丁だから40発。
  連続してトリガーを引いてドラウグール達を蹴散らす。
  もっとも俺は優等生と違って能力者ではないからな、100発100中ではないし、頭部を破壊して一発で終わらせれるほどの命中率もない。一体倒すのに数発を要することもざらだ。
  おっさんはアサルトライフルをスージーに押し付け、自分は二丁の10oマシンガンの弾幕を展開してる。
  圧倒的だな、おっさん。
  「スージー、撃てっ! 俺様は弾倉を交換しなきゃいけねぇっ!」
  「わ、分かった」
  スージーは撃つ。
  しかし反動に負けてそのままひっくり返った。
  俺とスージーの分の攻撃がなくなりドラウグールがその隙を突いて突っ込んでくる。数は既に減っている、おっさんの圧倒的な火力でだ。それでのその隙を突いて5体が俺たちに向かってくる。
  くそっ!
  弾倉交換はまだだ。
  スイッチブレードを手に俺様は迎え撃つべく……。

  
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  耳をつんざく爆音。
  向かってきていたドラウグールたちは消し飛んでいた。
  おっさんはにやりと笑う。
  その手には40oグレネードライフル。
  「装填数は一発だが、圧倒的だろ?」
  「すげぇぜ、それ」
  流れが変わった。
  ドラウグールはアータームーとか叫んでるが、それだけだ。知性があるってその程度か。ラッシュしてくる以外には特に頭はないらしい。
  殲滅するのにそれほど時間はかからなかった。
  敵さんは全滅。
  「ふぅ」
  おっさんは弾丸を装填してから武器を身に着け直す。尻餅ついたままのスージーはアサルトライフルを返却。
  ドラウグールは全て死んでいる。
  にしても夕方から夜にかけて行動するんじゃないのかよ。
  何だったんだ、こいつら?
  「ブッチ、余計な手間を食ったな、行こうぜ」
  「ああ。スージー、平気か?」
  「ええ。早くボルトで一息つきたい」



  ボルトに到着。
  ボルト101は洞窟の中にある。スージーが歯車型の扉を開く。久し振りの帰還だ。足を踏み入れようとした瞬間、セキュリティに銃を付けつけられた。
  2人いる。
  当然見知った奴らだ。
  オフィサー・ゴメスとオフィサー・ウィルキンスだ。
  「動くなっ! どうやって入って来たかは……スージー?」
  「ただいま。オフィサー・ゴメス」
  出迎えたのはセキュリティの中でも良識のあるオフィサー・ゴメス。
  優等生の元上司で、監督官側と反乱側が抗争を繰り広げていた間も何とか仲裁しようとしていた1人だ。
  「どうした? 何で1人で戻ってきたんだ? 遠征隊は……」
  「よう、ゴメス」
  「ケリィか? 随分と、まあ、太ったもんだな。誰だか分からなかった。ブッチもいるのか、今日は同窓会でもあったか?」
  持ってきたカバンを開いてケリィが中身を見せる。
  酒だ。
  「勤務中だろうが一杯やらねぇか? 外の酒はきついが美味いぜ?」
  「ブッチ、スージーを連れて行ってくれ。俺は、ここで飲む」
  何かを感じ取ったのかオフィサー・ゴメスは俺たちを素通りさせる。
  ボルト内ではやはり何かあるらしい。
  火種がくすぶってる。
  そんな感じだ。
  「行こうぜ、スージー」
  「ええ」
  俺たちはボルト内を進む。
  時折顔見知りと会うが声を掛けてくるものはいない。既に俺様は余所者扱いってわけだ。
  一定間隔でオフィサー・ウィルキンスが付いてくる。
  余計なことはするなってことか。
  監視のようなものだ。
  「ブッチ」
  「何だ?」
  「私は自分の部屋に行くわ。母さんに、今回のこと、話さなきゃ」
  「俺様も付いて行くか?」
  「ううん。ブッチはアマタに今回のことを報告してきて」
  「ああ。じゃあ、そうさせてもらう」
  ここでスージーと別れる。
  俺は監督官の部屋に向かう。監督官の執務室に向かえば向かうほど敵意の目が増えてくる。セキュリティは俺を白眼視してる。
  余所者だからな。
  仕方ない。
  「おい」
  振り向く。
  オフィサー・ウィルキンスが声を掛けてくる。こちらに来いと手で合図。
  「何だよ」
  「脇道がある」
  「脇道?」
  そんなもんあったか?
  「使われていなかった通路を改修したんだ。脇道を通っていくぞ」
  「あ、ああ」
  先導され、付いていく。
  しばらく進むと行き止まり。
  「何だこりゃ?」
  「行き止りだよ」
  「はあ?」
  「お前の人生の行き止まりだ。俺同様になっ! ボルトの敵は全て殺す、混乱が俺の家族の命を奪った。あの医者の親子の所為だ、そしてボルトを捨てようとしている連中の所為だ。
  お前もボルトの平穏を破った悪魔だ、死んでもらうぞっ! 全てはボルトの平穏の為にっ!」
  「ちっ」
  ボルトセキュリティの正式装備の10oピストルを引き抜こうとした瞬間、俺は奴に向かって体当たり。
  オフィサー・ウィルキンスは吹っ飛ぶ。
  こいつら戦い慣れしてねぇな。
  オフィサーどもは訓練は受けてるが実戦がないからな。
  外の世界を経験してる俺様の敵じゃねぇっ!
  立ち上がって銃を構えようとするものの俺様は奴の顎を蹴り上げた。そのままオフィサーはひっくり返って動かなくなる。銃を踏んで、遠くに蹴った。気絶したようだ。
  くそ。
  こいつもボルト至上主義者かよ。
  油断できねぇぜ。
  胸元にワッペンで「ボルト至上主義者です」と書かれてればいいんだが、そうじゃないからな、不意打ちされたら堪らんねぇ。
  どれだけいるんだ、こういう類の奴ら?
  面倒だぜ。
  気絶しているこいつを放置して俺は元来た道を戻り、それから正規のルートで監督官の執務室に向かう。
  途中でちょっかいを出してくるオフィサーはいなかった。
  さっきのはやっぱり特殊な奴なのか?
  執務室の前にはセキュリティが1人いた。俺の顔を見ると何か言いたそうだったが何も言わずに扉の前を離れた。
  隋分と物分かりが良いな。
  ……。
  ……良過ぎるだろ。
  オフィサー・ゴメスから無線連絡が行っているんだろうけど、物分かりが良過ぎる。
  アマタは想定してたのか、遠征隊のこと。
  ありえるな。
  執務室の扉が開き、俺は中に入る。
  アマタは椅子に座ったまま俺を部屋に向かい入れた。
  「久し振りね、ブッチ」
  「よお」
  監督官の部屋で久し振りにアマタと再会する。
  監督官アマタと。
  だが俺はどこかで違和感を感じていた。
  何だこの感じ?
  官僚的な印象を受ける。
  「こいつをお袋に渡しておいてくれないか?」
  「何これ?」
  「お袋へのプレゼントだ」
  「自分で渡せば?」
  「照れくさいからな。頼むわ」
  「トンネルスネークの親玉も人の子ってわけね。それで? その為だけに帰ってきたわけ?」
  「スージーを送ってきた」
  「へぇ」
  「……」
  まじまじとアマタを見る。
  「何、ブッチ?」
  「驚かないんだな」
  「ええ。そうね」
  「どういうつもりなんだ?」
  「ブッチはどこまで知っているの?」
  「知ってることは何もねぇよ。アラン・マックにハチの巣にされ、ワリーに蹴られたぐらいだな。ミスティも襲われたぞ。不在で家を滅茶苦茶にされた程度だが」
  「へぇ」
  「……」
  アマタは頬杖をして聞いている。
  何だ、この感じ。
  「お前知ってて許したのか? 遠征隊の派遣」
  「もちろん」
  「厄介払いってか? あいつらを厄介払いとして送り出したってか?」
  「ええ。スージーぐらいは戻ってくると思ってた。彼女は予想外の、遠征隊だったしね。飛び入り参加なのよ。他の連中は、想定内よ」
  「何考えてやがるっ!」
  「もちろんボルトの平穏よ」
  「開放はどうしたんだよ」
  「それも考えてる。でもまずは内部体制を整えなきゃね。混乱は必要ない。そう、それがボルトの規範なのよ」
  「問題の先送りじゃねぇのか、それ」
  「好きに受け止めたらいいわ」
  「相当数まだ中にいるんじゃねぇのか?」
  「何が?」
  「ボルト至上主義者どもだよ」
  「ええ。把握してるわ。全部ね。折を見て何とかするわ。12名いる」
  「俺や優等生が襲われたことに関してはどう思ってるんだ? 優等生はいなかったけどな」
  「気の毒だとは思うわ」
  冷たい。
  どこまでも冷たい。
  俺がいた頃のアマタではない。
  何だ、この変化は。
  まるで前の監督官のようだ。
  「そういうことかよ、アマタ」
  「何?」
  「ボルトの平穏の為にいらない連中は送り出したってわけか。どうなるかも想定してよ。外の連中はどうなってもいいってわけか、誰が死のうと生きようともよ。ボルトの平和の為だもんな」
  「あなたに何が分かるの? 均衡を保つことの難しさがあなたには分かるの?」
  「分かんねぇよ、そんなの。分かりたくもねぇ」
  「責任の無いあなただからこその言葉ね」
  「お前変わったな。昔はそんな奴じゃなかったぜ。お前今の顔を鏡で見たらどうだ? お前が嫌ってた前の監督官と同じ顔してるぜ?」
  「ボルトは限界まで来てるのよ、浄水チップは損傷してきたし原子炉も耐用年数はとうに超えてる。混乱はいらないの。混乱は閉め出すに限るわ、そうすれば改革がどんどん進む」
  「あいつらが帰ってきた場合は?」
  「帰って来やしないわ。私が入れないもの」
  「ボルトの防御力ってか? あんまり過信しないほうがいいぜ? 外ってのは、相当ヘビーだからな。運が良かっただけだ、今までな」
  「そうかもね」
  「冷静になるのと冷徹になるのとでは意味が違うぜ、アマタ。お前は何にも分かってない、何にもな。このままじゃここはお終いだ」
  「終わらせないわ」
  「そうかい。だけど話はお終いだ。お前は少し頭冷やせ。優等生は今のお前見たらなんと言うんだろうな」
  「……」
  「じゃあな。俺帰るわ」
  背を向けて部屋を出ようとする。
  アマタの声が背に刺さる。
  「オフィサー・マックを覚えてる?」
  「あのサディストか? それが何だってんだ? ラッド・ローチに食い殺されたんだろ?」
  「表向きは」
  「表向き? どういうことだよ」
  「私を拷問しようとしたのよ、父の命令で。それをミスティが阻止して、射殺した。父さんも興奮して正気を失ってたんでしょうね、あの時は。発表した時は死因を隠蔽したわ」
  「それを、アラン・マックは知っているのか? それで復讐の為に外に?」
  「分からない。かもしれないわ」
  「まっ、いずれにしても優等生はポイントルックアウトにいるから襲いようがないけどな。帰る前に俺様がケリをつけるぜ」
  「……ブッチ」
  「気にすんな。俺は生きてるし、家は直せばいいだけだからな。あんま気にするな」
  「父がしてきたことが今なら何となく分かる気がする。父はやり過ぎたけど、ボルトを思っていたのね」
  やり過ぎってレベルか?
  まあいいか。
  「じゃあ俺は行くぜ、アマタ。またな」
  「ブッチ、ごめんなさい」
  「いいさ」



  「で? どうするんだ?」
  「何とかするさ」
  ボルト101を出て岩山を降りながら俺はそう答えた。
  実際問題としてボルト101の内情はもう俺様にはどうしようもない。俺様は外にいるからな、何とかするのは、中にいるアマタの問題だ。とはいえこのまま手をこまねいてもいられない。
  内部の改革になるかは知らん、知らんけど、アラン・マックたちボルト至上主義を野放しにはできない。
  ミスティは今いない。
  キャピタルではなくルックアウトにいる。
  あいつらもこの間の襲撃で不在を知った可能性は高い。ただメガトンにいないだけではなく、そもそもキャピタルにいないことを知った可能性が高い。
  優等生は有名人だからな。
  警戒態勢となったメガトンで聞き込みせずともキャラバン隊あたりに聞けば分かるだろう。キャラバン隊は情報通が多いし。
  標的がいない、となると、ボルトに戻らずに虎視眈々と外で待つだろう。
  帰る?
  それはないだろ。
  さすがにそう何度もボルト至上主義だけで外に出されることはないだろう、それぐらいは理解してるはず。
  大部隊で外に出れて、銃火器も充実してて、全てボルト至上主義者で、物資も十分、こんな機会はまずあるもんじゃない。優等生殺すまで外に居座るだろう。問題は外が過酷って
  ことだ。その苛酷さに適応するために連中がレイダーもどきになることも十分考えられる。というか実際既にレイダーだろ、メガトンで暴れたしな。
  俺は既に部外者。
  だけど、やはり、故郷の絡みだからな、何とかしなきゃって気持ちはある。
  優等生は今いない。
  だったら、俺が元ボルト居住者代表にならんとな。
  「おっさんも手伝ってくれるのか?」
  「まあ、俺もボルトの人間だったからな。それに保身も考えなきゃだしな。手は貸すよ」
  「保身って何だ?」
  「あいつらお前も狙っただろ? 俺もボルト脱走者だから思い出したように狙われてもかなわん。狙われる前にこっち動いた方がいいからな」
  「なるほどな」

  「おおっと、そこで止まれ」

  突然の警告。
  俺たちは立ち止まった。
  警告されなくても止まっただろう、突然道を塞ぐように物陰から数人が飛び出してきたからだ。警告して来た奴以外はアサルトライフルを構えてる。
  数は全部で8人。
  一瞬ボルトのセキュリティ部隊かとも思ったが若干武装が違う。
  リベットシティの装備に見える。
  そして指揮しているのは……。
  「ジェリコか?」
  「よおケリィ。眠れる森のおっさんは、ようやくお目覚めか?」
  「うるせぇ」
  「まあいいさ。お前さんは昔馴染みだし任務とは何の関係もない。俺たちはリベットシティ警備隊だ。そこのそいつ、ブッチ・デロリアを殺しに来たのさ」
  「はあ? お前、なんかしたのか?」
  まったく身に覚えがない。
  ジェリコは笑う。
  「ガルザを殺しただろ? お前。それにDr.マジソン・リーの研究品の横流し犯だ。仲間割れでガルザを殺したってわけだろ?」
  「待て待て待てっ! 言っている意味分からんぞっ!」
  「分からなくてもいい。そういう筋書きってわけだ」
  「筋書き?」
  「知る必要はない。俺は命令されたから殺す、お前は犯罪を犯したから殺される。お前の意思や都合なんざ関係ないんだよ、俺は命令に従う。それが仕事だ」
  「随分と乱暴な理論だな、ジェリコ」
  グレネードライフルをジェリコに向けながらおっさんが言う。
  やべぇ、格好いいぞ、おっさん。
  「何のつもりだ。ケリィ」
  「こいつは西海岸の代物でな、見たことないだろ? だから説明してやる。40oグレネードを使う。装填数は一発だが、お前さんを撃てば手下もろとも吹き飛ばせる威力がある」
  「昔のダチを撃つのか? 俺はお前は見逃すつもりなんだぜ?」
  「お前の意思や都合なんざ関係ないんだよ」
  「……丸くなったな、ケリィ。体型もな」
  「うるせぇ」
  体型も丸くなったとかうまいこと言うぜ。
  手下どもはジェリコの指示を仰ごうと仕切りにちらちらと見ている。
  ケリィは続ける。
  「お前がリベットの警備隊だと? それも手下を従えれる立場? ハッタリなのか本気なのか……だがわざわざリベットの警備兵だとここでハッタリかます必要はないわな。特にメリットもない
  だろうし。BOSあたりなら騙る意味はあるだろうが。となると本気なのか。だが何だってここまで来る? ブッチを殺しによ? 何か裏があるんじゃないのか?」
  「裏? さあな。少なくとも、俺は金目当てだよ」
  「リベットで何か大きな動きがあるんじゃないのか? 横流しをブッチに擦り付けたい理由でもあるんじゃないのか? 解決済みにしたいのか? そいつは何でだ? 何を企んでる?」
  「企み、ね」
  そう呟いてジェリコは笑う。
  にこやかに?
  いや。
  凄惨な、まるで何かを憎むかのような、見るものを呪うかのような笑み。
  さすがの俺様もそんなものを見せられて息を飲む。
  何だ、こいつ?
  「個人的にはそんな餓鬼はどうでもいい。本当はな。……ああ、この手下どもは俺の傭兵仲間だ、基本的にはリベットと関係ないからぶっちゃけさせて仲間割れを狙ってるなら諦めな。とはいえ
  俺がリベットの命令で動いてるっていうのは本当だ。なあケリィ、お前はつまらないと思わないか?」
  「何が?」
  「この世界さ。随分とつまらなくなったと思わないか?」
  その瞬間、ジェリコは撃てと叫ぶ。それとほぼ同時にケリィはグレネードライフルの引き金を引いた。
  響く爆発音。
  衝撃と爆音が俺たちを通り過ぎる。
  最初の決定的な一撃でジェリコを中心に敵は吹っ飛んだ。文字通りジェリコは仏飛んだ。3人ほど衝撃波でその場に倒れるものの銃をまだ手にしたまま。
  警告は必要ない。
  俺は素早く二丁の9oピストルを引き抜いて容赦なく弾丸を叩き込む。2人は悲鳴を上げて倒れた。残り1人は脳震盪でも起こして意識が混濁したのかあらぬ方向を撃っている。とはいえ
  見逃す気はない。ケリィが腰の10oマシンガンでハチの巣にした。敵さんは完全に蹴散らした。
  結局何だったんだ、こいつら。
  「くそ、あの野郎、撃ちやがった」
  おっさんの右足から血が出ている。
  太ももが撃ち抜かれていた。
  「大丈夫か、おっさん」
  「ああ。まあな」
  貫通しているらしい。スティムパックを取り出しておっさんは足に撃った。弾丸が留まってたら抉り出すという手順があるから、貫通していて何よりだぜ。
  スティムパックはあくまで回復力を爆発的に高めて傷を癒す代物だ。
  体内に留まった弾丸を押し出してはくれない。
  その状況で投与すると体内に残ったまま傷が塞がってしまうから逆効果だ。
  「ブッチ」
  「何だ?」
  「正直に答えろ。お前犯罪を犯したのか?」
  「ガルザを殺したって話か? 知らねぇよ。俺は、ただ、リベットでガルザを解放して部屋に連れてっただけだ。心臓病の薬を棚から出して渡しただけだ。俺じゃねぇよ」
  「だろうな。お前はそういう奴じゃないしな」
  「そ、そうか、サンキュな」
  「ともかく帰ろう、メガトンに。しばらくはリベットには行かない方がいいだろうよ、世間の流れがおかし過ぎる。特にリベットがな」
  「そうだな。そうするよ」
  「とりあえずメガトンに戻って次の行動を考えよう。それからだ」





  ブッチたちが立ち去ってから30分後。
  戦闘の跡地。
  一組の男女が爆心地、グレネードライフルの爆心地に立っていた。そこに転がるジェリコの残骸に。
  四肢は消し飛び、かろうじて胴体と頭が繋がっている黒焦げの死体。
  40oグレネードが直撃したのだ。
  生きているわけがない。
  「やれやれ。ざまぁないねぇ。こんなにあっさりじゃあ組んだ意味がない。まあいい。回収しな」
  「うーがー」